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野呂 正行

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計算代数ソフトウェアの開発

野呂 正行(神戸大学理学部数学教室)
学位:博士(工学)(愛媛大学)
専門分野:計算代数
ユニット:数と式

活動報告書

私が研究開発対象としている計算代数(数式処理)ソフトウェアは、主として多項式環における計算を記号的かつ厳密に実行することを目的としている。このような計算は、木構造で表現された多項式や、任意多倍長数を扱うために、大量の主記憶、高速なCPUを必要とし、かつては高価な計算機上で、Maple、 Mathematica、などの商用システムを利用する他なかった。しかし、その後、PCの急激な高速化、大容量化により、PC上でも相当大規模な代数計算が可能となり、また、世界各地でフリーな計算代数ソフトウェアが開発、公開されるようになった。私は、当時(株)富士通研究所において、Risa/Asirという計算代数ソフトウェアを開発していた。当初は実行形式のみ無償配布していたが、 2000年に神戸大に移る際に、ソースコードを含めた無償配布の許可を得て、現在に至っている。
計算代数ソフトウェアが対象とする計算は、その名の通り、代数的計算が主なものであり、必然的に数学、特に代数学との親和性が高い。例えば、体上の多変数多項式環のイデアルの「よい」生成系を与えるグレブナー基底は、代数方程式系の求解、代数多様体の種々の不変量計算などをはじめとして、代数幾何、代数解析など広い分野へと応用が広がっている。現在では、数多くの計算代数ソフトウェアにこれらの機能が実装され、手軽に計算実験を行うことができる。しかし、少し複雑な問題を入力すると、計算が終わらないことがよくある。私自身の興味は、このような代数的計算に関し、アルゴリズムおよび実装上の工夫により、できるだけ広範囲の入力に対して効率よく計算できるようにすることにある。特に、グレブナー基底計算の効率化には十年以上にわたり力を注いできた。 グレブナー基底を計算するためのBuchberger アルゴリズムは大変単純であるが、実用に耐えるレベルの実装を行うには、さまざまな工夫を行う必要がある。これに関し、いくつかの新提案を行い、実装し、効果を実証してきた。特に、有限体上の計算をいかに応用するかが効率化の鍵と考えている。また、ワイル代数(多項式係数の微分作用素環)におけるグレブナー基底計算とその応用についても興味がある。大阿久俊則氏(東京女子大)および高山信毅氏(神戸大)により、D加群に関するアルゴリズムが多数考案された。これらにおいて、b-函数が重要な役割を演ずる。これについて、彼らによるb-函数計算アルゴリズムを改良して、計算できる対象を広げることに成功した。この計算もグレブナー基底の応用であり、その効率化には可換多項式環における経験が役立っている。

Risa/Asir : b-函数の計算

代数的計算は、一見して応用が数学に限られているように見られがちであるが、目先の産業応用探しに躍起になる必要は必ずしもないと考えている。数論応用暗号のように、思いがけない応用がなされる可能性は常にある。グレブナー基底でいえば、既に、整数計画法、統計学、生物学などへの応用が現れている。また日比孝之氏(阪大)らにより、数学者の観点から新しい応用の開拓も進められており、成果が期待される。
計算代数ソフトウェアに限らず、最近、フリーな数学ソフトウェアが数多く入手できる。数年前から、これらを多数収録したLinux Live DVD であるKNOPPIX/Math を濱田龍義氏(福岡大)らとともに作成、配布している。DVDには数値計算、統計計算、可視化ツールなど、数学の応用に適したものが多数収録されているので、数学者に限らない、より広い範囲の方々に使っていただけるよう努力したい。

KNOPPIX/Math

今後の研究開発であるが、計算代数ソフトウェアの応用として、代数方程式系の求解は常に基本的かつ重要なテーマである。Risa/Asirにはイデアル分解が実装されており、ブラックボックスとして代数方程式系求解に用いることができるが、長期間改良されていない。これを、最近の成果を取り入れて書き直し、より高性能なものを提供したい。また、数値近似解の計算のため、穴井宏和氏(富士通研、九大)らの数値/数式ハイブリッド計算手法も応用したい。

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