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谷口 説男

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事業推進担当者

確率解析とその応用

谷口 説男(ユニットリーダー)(数理学府)
学位:理学博士(大阪大学)
専門分野:確率論
ユニット:不確定性

活動報告書

マス・フォア・インダストリ(以下MIと称す)の目指す、産業と数学の相互効果を持った融合を成し遂げた事例が既に散見できる。ウェーブレット解析、暗号理論、CTスキャンなどを思い浮かべる方も多いであろう。数理ファイナンスにおける経済学と確率論の邂逅もまたその事例のひとつである。賭け事に関わる諸問題について交わされたフェルマーとパスカルの往復書簡を出発点とする確率論が実学と結びつくことは始めから約束されていたともいえるが、今日のような緊密な融合は非常に幸運な邂逅というべきであろう。

数理ファイナンスにおける確率論の重要さは、1942年に伊藤清により創始された確率解析に拠っている。1827年にスコットランド人植物学者ロバート・ブラウンにより見いだされた不規則運動は、彼に因んでブラウン運動と名付けられ、1920年代に数学的厳密さをもつモデル化がなされた。歴史的に良く知られた1905年のアインシュタインのブラウン運動に関する論文に先だつ1900年にフランス人数学者バシェリエがブラウン運動に基づく株価モデルを提唱したことが、今日の数理ファイナンスと確率論の融合の萌芽である。最近新聞紙上でも見受けられるブラック-ショールズ理論は、1960年代から70年代にかけてノーベル経済学者サミュエルソンを中心に、ブラック、ショールズ、マートンなどが行った金融派生商品の価格公式を与える理論モデルである。1940年代以降に展開されたブラウン運動に基づく解析学である確率解析が、そのモデル構築、モデル展開において、重要な役割を果たすこととなる。このモデルのさらなる一般化において、ブラウン運動以外の確率過程に基づく確率解析は不可欠のものであり、理論と実際の間の激しい相互啓発が続いている。

確率解析の研究は、伊藤により創始された確率積分、確率微分方程式に関わる解析(伊藤解析と呼ばれている)と、1970年代半ばに現れたより関数解析的なマリアバン解析が相まって進展した。私は、確率微分方程式とマリアバン解析を研究活動の主対象としてきた。確率微分方程式の解から得られる確率変数の確率密度関数に関する研究、確率微分方程式の定める確率流の研究、マリアバン解析を用いた経路空間上での複素変換公式の研究、確率振動積分と呼ばれる無限次元空間上のフーリエ・ラプラス型変換の研究、確率解析のKdV方程式への応用の研究などで研究成果をあげてきた。確率振動積分は、ファインマン経路積分の確率論的対応物であり、確率振動積分に対する停留位相法の研究の波及効果は確率論にとどまらない。また,確率解析的な非線形方程式のアプローチであるKdV方程式の研究は、偏微分方程式と確率論の新しい融合研究領域を拓くものである。

行ってきた研究はすべて確率論の純粋理論に関わるものであるが、そこで培われた確率微分方程式などの確率解析の知識を用いて、産業界・官庁のニーズに密着した高度な専門知識を持つMI人材の育成に努めてきた。たとえば、大学院講義、学部学生・大学院学生の教育指導において数理ファイナンスに関わる確率解析の話題を主体に取り扱ってきたことや、数理ファイナンスに関連する図書を著したことである。金融工学への数学的素養を身につけた学部学生、大学院学生の多くが、金融関連企業や官庁へと進んでいる。

平成20年4月より、日新火災海上保険株式会社と九州大学大学院数理学研究院の共同研究「日新火災プログラム」責任者として、学術研究員2名を雇用し、共同研究を遂行している。保険業界には、平成23年を目処に国際化(国際会計基準)や新しい経営健全さを示す指標(ソルベンシー・マージン)が導入されようとしている。

Run-off triangle (accumulated figure)

これらの動きに対応しうる新しい保険実務に対応できる高度な数理技術の素養を持つ人材を育成し、数理モデルを開発することがこの共同研究の目的である。数理学研究院の推進する産業技術数理共同教育研究プロジェクトの一環であり、研究にとどまらず両者の若手研究人材の教育と育成もその目的としている。本共同研究を端緒とし、他の金融機関、非製造業企業との数学系研究組織の直接的共同研究を推し進めることを目指している。

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