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栄 伸一郎

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事業推進担当者

非線形解析とその応用

栄 伸一郎(数理学府)
学位:理学博士(広島大学)
専門分野:非線形解析
ユニット:形と流れ

活動報告書

生命現象において、呼吸や食物摂取によりその形態が維持されていたり、化学反応系において反応が進行している間、ある特徴的なパターンが持続されていたりするなど、エネルギーの継続的な流出入の過程で現れる時・空間パターンを散逸系におけるパターンという。その最も単純なものは、反応拡散型と呼ばれるモデル方程式によって記述されるが、1952年チューリングは反応拡散系の単純なモデルを用いて、生物における形態形成のメカニズムを理論的に示唆した。そのメカニズムは今日では拡散不安定性、あるいはチューリング不安定性という名で知られており、その後、プリゴジンはこの考えを他のさまざまな散逸系に拡張し、散逸構造に関する理論を打ち立てた。1977年プリゴジンはこの業績によりノーベル化学賞を受賞している。一方これらの理論を実際の生物の形態に応用するには、越えがたい溝があると考えられてきたが、1995年、 日本の近藤らはある種の熱帯魚に見られる体表の模様が反応拡散型のモデルで表現されるだけでなく、成長に伴うパターンの変化さへもが忠実に再現されていることを観察により示した。これにより実際の生物の形態形成の過程においても、確かに拡散不安定性のメカニズムがその根底において本質的に働いているという考えが確かなものとなり、今日に至っている。一方それに先んじた1991年、フランスボルドーのデ・ケッパーらのグループはCIMA(Chlorite-Iodite-Malonic Acid)という、ゲルを用いた化学反応系において、拡散不安定性のメカニズムにより縞模様や水玉模様が現れることを示している。このように、拡散不安定性は生物や化学反応系における自発的なパターン形成に関わる普遍的メカニズムの一つということができる。自発的パターン形成は自己組織化とも呼ばれ、最近ではナノテクノロジーへの応用も期待されている。実際カーボンナノチューブの一部は、こうした自己組織化のメカニズムにより生成されると考えられており、反応拡散型のモデルも提案されている。 拡散不安定性をはじめとするパターン形成理論が自然科学分野だけでなく、産業界においてもますます重要となりつつあることを示す一例といえる。

図: 形態形成モデルのおける尖塔状局在パターンの生成と発展

私自身はその中でも特に反応拡散型方程式の数理解析を研究の中心としており、パターン形成をはじめとする、さまざまな解の挙動を如何に理論的に追跡することができるかに興味を持ってこれまで研究を行ってきた。反応拡散方程式の解により表現される典型的な空間パターンとして、パルス状局在パターンや解の等高線(面)によって表される界面などがある。前者は神経軸索上を伝搬する神経インパルスや形態形成モデルにおける尖塔状局在パターン等を、また後者は凝固現象における結晶形状や燃焼における炎の形状などを対応する現象例としてあげることができる。私はこれまでの研究を通して、パルス状局在解に関しては、それらが複数存在する場合の相互作用を理論的に考察するための基礎理論の構築に貢献し、また界面に関しては, 定常界面の安定性を考察するための方法を与えてきた。いずれも空間パターンの時間発展を研究する上で、有効な解析手段を提供するものであり、応用として尖塔状局在パターンの反発的相互作用や、圧力を伴った膜界面の安定性解析などがある。

実際現象におけるパターンは大変複雑であるように、モデル方程式の解が示すパターンもしばしば大変複雑である。したがって理論解析だけでは自ずと限界があり、計算機シミュレーションは解の様子を探る上で大変重要な研究手段の一つとなっている。このようなことから当研究室では、数学的な解析のみならず計算機による数値シミュレーションも自らできるように学生に求めている。現象とモデルを通した数理的理解、および計算機シミュレーションを自ら行う能力を持った学生たちは、これまでにデータ通信、ソフトウエア、教員、研究所などさまざまな職場に巣立ち、活躍していることを報告して、当研究室の紹介としたい。

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