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松井 卓

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量子状態のエンタングルメントとその応用

松井 卓(ユニットリーダー)(数理学府)
学位:理学博士(京都大学)
専門分野:数理物理
ユニット:機能数理の基礎

活動報告書

量子情報理論或は量子計算の原理的な研究は、ドイチュ等のパイオニアによって1980年代から行われてきたが、一般的に注目を浴びたのは1994年のピーター・ショアのアルゴリズムの発表からではないかと思われます。ショアのアルゴリズムは 量子計算特有の方法により素因数分解を極めて短い時間で行う可能性を理論的に示したわけですが、これは素因数分解の困難性を利用したRSA暗号の安全性を脅かすことになります。この研究はアメリカ政府筋より国家安全に対する重大な問題であるというコメントがマスコミに大体的に報道され、話題になりました。

1994年と言えばプレプリント・アーカイブを利用して様々な物理学の研究のプレプリントがインターネット上で容易に入手出来るようになった時期と記憶しますが ショアの論文の直後、量子情報関連のプレプリントは他の物理の10倍近い爆発的な数が出回りました。自分自身は量子情報の研究に関して、ほとんど何の予備知識もないまま、ある大規模なワークショップにミーハー的に出席し呆然としているだけで、とても何か関連した研究が出来るとは思ってなかったわけです。

このピーターショア・ショックの数年後、海外での研究会から帰るフライトの中で無限自由度量子系における中心極限定理に関する本を読んでいた時の事です。隣の席にはドイツから日本のある大学の工学部へ留学中の女性が座っていて、自分に質問してきました。「その定理は、どういう実験でテスト出来るの?」「どういう応用があるの?」自分自身は全く純粋に数学的な興味だけで本を読んでいたので、何ら彼女に満足ゆく解答が出来なかったのです。ところが数年後、中心極限定理の証明を論文にした時のレフェリーレポートには、「この中心極限定理は現在、実験上、確認することが出来る」というコメントが返ってきたので驚きました。少なくとも、あのドイツ人留学生の質問の半分には答えが出たのです。

話が少しずれましたが、自分の過去の研究を思い出してみると純粋に数学的興味で研究していた内容が量子情報的な問題に意外と関連していることを近年認識するようになっています。
量子状態のエンタングルメントは、これまで主として有限自由度の量子系の場合の研究が主で、その実現には光・レーザーの偏極などが利用されていたわけですが、本格的にデヴァイスを作るとなると光以外の統計力学的な系(無限自由度の系も含む)を利用することが期待されます。そのためには、無限自由度の量子系における量子状態のエンタングルメントの研究が必要となると思われますが、ドイツ・ブランシュバイク大学のReinhard Wernerのグループとの共同研究を通して、ある種準一次元系では十分多くの絡まったQ-bit対を生成するには系のスペクトル・ギャップが閉じていることが必要である事が判明しました。

正直、この程度のことでは、まだ工学的に役立つ結果とはほど遠いのは認めざる得ません。なぜなら、この定理の証明では絡まったQ-bit対を生成するアルゴリズムを与えないからです。実際にはIII型の超有限フォン・ノイマン代数とその可換子の中に互いに可換なII型の超有限フォン・ノイマン代数の対がどのように配置されうるかというこれまで数学者が研究した事のない問題が関わっております。

しかし、今後、研究が進めば、必要なQ-bit対を効率よく生成する手続きも明らかになると期待しています。ショアの因数分解のアルゴリズムの原理原則論から言えば公開暗号は安全ではないというnegativeは影響を与えた量子情報理論でありますが、一方で、量子情報理論の発展により絡まったQ-bit対を生成する実験も行われており、暗号の鍵配送への応用が期待されているわけで、今後、応用の可能性が期待できると思われます。

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