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岩﨑 克則

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代数多様体上の力学系とパンルヴェ方程式

岩﨑 克則(数理学府)
学位:理学博士(東京大学)
専門分野:複素幾何・力学系
ユニット:機能数理の基礎

活動報告書

私が研究しているパンルヴェ方程式が発見されたのは百年あまり前のことである。それはちょうどポアンカレによって力学系の定性的研究が創始され、天体力学の中にカオス的現象が発見された時代であった。パンルヴェ自身もパンルヴェ方程式を発見するとともに、天体力学の専門家として多体問題におけるパンルヴェ予想を後世に残している。従ってパンルヴェ方程式に対して、当初から定性的な意味での力学系的な研究があってもよかったと思われるが、不思議とそうはならなかった。現在も可積分系的な研究が主流である。このような状況に鑑み、パンルヴェ方程式に対して、エルゴード理論などを中心とした定性的な意味での力学系的研究を行っている。

この研究は二つの基盤のうえになされている。一つはパンルヴェ方程式の代数幾何学、特に幾何学的不変式論にもとづくモデュライ理論的な展開である。もう一つは最近進展をみせている代数多様体上の双有理写像のエルゴード理論である。これら二つの構成要素をリーマン・ヒルベルト対応とよばれる写像を介して結びつけ、パンルヴェ第 VI 方程式のカオス的性質を明らかにしたのが最近の結果である。そこでの主な課題は、パンルヴェ方程式のモノドロミー写像に対する、混合的で双曲的な最大エントロピー不変確率測度の構成、エントロピーの計算アルゴリズムの確立、周期解の個数の周期に関する指数増大性の証明などである。その背後に複素解析における多重ポテンシャル論などがあるところが面白い。

また、現在ではパンルヴェ方程式の周期解や代数関数解についても研究をおこなっている。周期解の研究においては、アティヤ・ボットの公式などレフシェッツ型の不動点公式や、局所指数の挙動に関するシュブ・サリバン型の定理が重要となるが、面積保存系であるパンルヴェ方程式に対しては従来のものは適用できない。そこで、面積保存系に対する斎藤秀司の不動点公式の有効性を認識したり、周期曲線を許容する写像に対するシュブ・サリバン型定理を作ったりして、代数曲面上の保測的双有理写像の周期点に関する一般論を構成している。

パンルヴェ第 VI 方程式の代数関数解の分類は今のところ未解決である。この問題について、私もささやかな考察を進めている。リーマン・ヒルベルト対応、指標多様体上の写像類群作用の力学系、特異点解消の理論、冪幾何(ニュートン図形)の方法、非線形確定特異性の理論などを動員して問題に接近し、代数関数解のあり方を少しでも明らかにできればと思っている。理念としては「代数幾何に始まり初等幾何に終わる」ような解決法を模索している。

図1:パンルヴェ方程式のモノドロミー写像は安定放物型接続のモデュライ空間上の離散力学系として記述される(K, Iwasaki and T. Uehara, Math. Ann. 388(2007), no. 2, 295-345, Fig. 9より)

このような研究を通しての目標は、百年前のポアンカレの構想を少しでも実現することである。微分方程式で定義される力学系の回帰写像を考えることにより、連続力学系を離散力学系へ還元し、後者を通じて前者の大域挙動を完全に理解する。このような構想から、力学系、代数幾何、トポロジーなど、さまざまな数学が発展していった。しかし、もともとの構想自体は一種のスローガンに留まり、その後百年間の数学の発展をとりいれて、当初のポアンカレの構想が大域的にかつ完全に実行されることは実質的になかったように思われる。またこのことは、現在の数学では、偏微分どころか(非線形)常微分方程式一般に対しても難しすぎるように思われる。そこで一つの具体例でよいから、意味のある非線形常微分方程式に対して、このことが実行できれば喜ばしい。そういうささやかな動機からパンルヴェ方程式を研究している。

しかし、このように対象をしぼってみると、かえって使用する数学の幅が増え、同時に話がだんだん奥深くなってくるところが面白い。役に立つか立たないか分らないまま、自分にとって新しい数学を勉強していると、たまには意外なところで役立つこともある。そういうときはとても感動する。GCOE では、機能数理の基礎ユニットの一員として数学の基礎的なところに基盤をおきながら、マス・フォア・インダストリに少しでもお役に立てれば幸いである。

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