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事業推進担当者

幾何学的変分問題とその応用

小磯 深幸 (数理学研究院)
学位:理学博士(大阪大学)
専門分野:微分幾何学
ユニット:形と流れ

活動報告書

幾何学における基本的かつ重要な研究課題の一つとして,幾何学的変分問題の解についての研究がある.私は,主として定曲率リーマン多様体内の超曲面に対する変分問題の解の存在と一意性,安定性,幾何学的性質についての研究を行っている.

まず,基本的な研究対象について説明しよう.この種の問題で古くから研究されているものの中に,極小曲面と平均曲率一定曲面(constant mean curvature surface. 以下,CMC曲面と略記する)がある.前者は面積の臨界点,後者は「囲む体積が一定」なる付加条件のもとでの面積の臨界点である.そのため,これらはそれぞれ,石鹸膜,シャボン玉の数学的抽象化と言われることがある.一方,たとえば結晶のように異方性を持つ物質の形状については,エネルギーとして面積汎関数を考えるだけでは十分ではなく,より一般の,エネルギー密度が表面の法線方向に依存するようなものを考える必要がある.曲面上の各点におけるこのようなエネルギーの曲面全体での和(積分)を非等方的表面エネルギーと呼ぶ.これは,結晶やある種の液晶の表面エネルギーの数学的モデルを与える.物理的にも自然な変分問題は,「囲む体積が一定」なる条件のもとでの非等方的表面エネルギーの臨界点を研究することである.その解は非等方的平均曲率一定(constant anisotropic mean curvature.以下,CAMCと記す)曲面と呼ばれるものになる.通常,面積汎関数も非等方的表面エネルギーの特別な場合と考えるので,CAMC曲面は極小曲面やCMC曲面の一般化となっている.一般に,変分問題の解は,対応するエネルギー汎関数の第2変分が非負であるときに安定であるといわれる.特に,エネルギー極小解は安定である.物理的に実現されるのは安定な解だけであり,安定解について研究することは,理論・応用の両観点から重要である.

約8年前からは,主として,Bennett Palmer氏 (米国・アイダホ州立大学教授)と共同で,CMC曲面を含む変分問題の解のクラス,主にCAMC曲面についての研究を行っている.CAMC曲面は,近年,数学では,微分幾何学,幾何学的測度論,凸解析,微分方程式論,確率論その他の分野で研究されており,物理学や工学を始めとする他分野でも基礎・応用の両観点から研究されている.この中で,微分幾何学的な研究については,数年前まではあまり多くなかったが,Koiso-Palmerによる一連の研究により新たな発展を見,ドイツや中国を始めとする諸外国でも良い研究成果が出て来始めている.曲面の非等方性は形態形成に重要な役割を果たすため,非等方的曲率流方程式の研究が学際的に取り上げられているが,CAMC曲面はこの方程式の解の極限を与える候補ともなり,その性質を研究することは,この意味でも重要である.Koiso-Palmerは,CAMC曲面の幾何学的性質,表現公式,安定性,ガウス写像及びその除外集合問題,自由境界問題の安定解の存在と一意性等について多くの研究成果を得た.

最新の研究成果としては,3次元ユークリッド空間内の種数0のCAMC閉曲面はWulff図形またはその相似に限ることを証明した.これは,非等方性を持つ物質の形状の決定に貢献すると期待される.また,現在は,付加条件の変化に応じ,安定解の対称性が崩壊していく現象の解明についての幾何解析的方法を構築しつつある.

大学院学生の教育については,これまでに,極小曲面論,複素多様体論,幾何学的変分問題等に関する研究指導を行った経験があり,研究者や企業における専門的職業人を育成してきた.学生の学力・資質・興味感心に見合う課題を与え,できるだけ「自分自身で発見する」「自分自身で納得できる証明をする」ことを目標にし,資質の向上と共に自信と興味が続くことを目指して指導している.さらに,数学の他分野への応用についても,直接的な応用から,十分に長い目で見た遠い将来の応用の可能性まで,広く高い視点でとらえて教育の場にも生かし,学生の視野を広げるための助言や指導を行うよう努めている.

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